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東京地方裁判所 昭和39年(レ)372号 判決

控訴人 梅田豊明

原審被告相馬久胤訴訟承継人

被控訴人 相馬高胤

主文

1、本件控訴を棄却する。

2、控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、本件記録によれば、原審被告相馬久胤は昭和三八年一〇月五日原判決の送達を受けたが、その後昭和三九年二月一三日死亡したこと、原審原告である控訴人に対する原判決の送達は同人が不在のため遅れて昭和三九年七月一八日になされ、控訴人は同年八月一日本件控訴を提起したことが認められる。してみれば本件控訴の提起は、原審被告死亡による訴訟手続中断中の訴訟行為であるから、違法であるといわなければならない。

しかしながら、訴訟手続の中断中に行われた訴訟行為を違法とするのは、相手方当事者の利益を保護するためであって、当事者の意思によって左右することのできない公益上の理由によるのではないから、相手方があえてその違法をとがめることなく、これが適法であることを前提としてそのまま訴訟行為を続行することは一向差支えないと考えられるのであって、かような行為はいわゆる責問権の放棄に該当すると解すべきである。

本件記録によれば、被控訴人は原審被告相馬久胤の唯一の相続人であって、控訴人の本件控訴に対して何らの異議を主張することなく、むしろこれが適法であることを前提として昭和三九年一〇月二一日訴訟手続受継の申立をしていることが明らかである。これらの事実からみれば被控訴人は本件控訴提起の無効を主張する権利を放棄したものと解するのが相当であって、本件控訴提起行為の瑕疵は治癒されたというべきである。なお、中断中の訴訟行為をした控訴人が自らその無効を主張しえないことはいうをまたない。

二、そこで、控訴人の本訴請求について判断すると、当裁判所も原判決と同様の理由によりその請求を理由がないと考えるので、原判決の理由をここに引用する。

三、控訴人は、原審における証人相馬高胤に対する尋問は、証拠申請書及び尋問事項書をあらかじめ控訴人に送達することなしに行われたから原判決は違法である、と主張する。しかしながら同証人の証言は原判決が控訴人の請求を棄却する根拠とはなっていないから、かりにその手続が違法であるとしても原判決の効力には影響がない。また、控訴人は同証人の証拠調が行われた第二回口頭弁論期日はもちろんのこと、その後の口頭弁論期日にも出頭しなかったのであるから、前記証拠調手続に対する異議を述べる権利を放棄したものと解してよいであろう。

四、また控訴人は、原審被告相馬久胤提出の答弁書は口頭弁論で陳述されていないからこれを判決の基礎とすることはできないと主張するけれども、この答弁書記載の事実が原判決の基礎とされていないことは記録上明白であるから、この主張もその前提を欠き失当である。

五、さらに、控訴人は、原判決は控訴人が証拠を提出する前になされたもので違法であると主張するけれども、原審の第二、三回口頭弁論期日において、控訴人は適式の呼出を受けながら出頭しなかったことが記録上明らかであり、控訴人は自ら証拠を提出する機会を与えられながらそれを利用しなかったにすぎないというべきであって、この主張はそれ自体失当である。

四、以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求は失当であって、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古関敏正 裁判官 石崎政男 今井功)

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